医療教会は何を信じた?
ローレンスが設立した医療教会は、明らかに中世キリスト教社会における教会権力をモチーフにしています。
しかし、彼らが信仰した宗教は、意外にも明示されていません。
キリスト教に相当する概念がゲーム中になく、上位者と古い血(上位者由来の血)が信仰対象になっている印象を受けます。
それも「信じれば救済される」という、宗教にありがちな態度ではなく、上位者の血を活用して、上位者に近づくことを志向しています。
神を信じるというより、神の遺物を利用して、神に近づこうというわけですから、そのアプローチの姿勢は科学的とも言えます。
信仰・医療・科学という、あまり相性のよくない組み合わせは、凄惨な人体実験や儀式につながりました。

血の崇拝
Bloodborneの世界において、上位者は基本的に、恐怖(コズミックホラー)の発生源として描かれています。
しかし、医療教会の幹部は、上位者にポジティブな態度を見せており、囲い込んだエーブリエタースとも良好な関係を維持しました。
研究に従事した幹部らは、上位者の存在を把握していましたが、それ以外の関係者と一般大衆は、(ロマが討伐される前は)上位者そのものを認識していません。
そうであれば、多くの人々にとって、信仰の対象は「血の医療(または血そのもの)」だったことになります。
輸血が礼拝的な意味合いを持ち、それによって実際に、生命力が一時的に強くなることから、血の医療は爆発的に普及して、大衆の心身を依存させたのでしょう。
実益(治療・強壮)を兼ねた宗教的行為、あるいは娯楽だったわけです。
血が信仰対象になるヤーナムだからこそ、修道女や娼婦による「血の施し」という、奇妙な献身が価値を持ったのだと思われます。
ただし、大衆は「血の医療が獣化の原因である」という、不都合な真実は知らされていません。

聖歌隊の役割
医療教会は、血の医療を提供する傍ら、上位者研究を継続しました。
元々は、学術機関のビルゲンワースを母体としています。そこで上位者研究をしていた者が、瞳(啓蒙)を重視する慎重派と、血を重視する急進派に分かれました。
ビルゲンワースは、学長のウィレームが慎重派だったため、上位者の血を積極利用したい一派が、医療教会として分離独立していきます。
そこには、後にメンシス学派として、より過激な実験と儀式に手を染める、マッドサイエンティストたちも含まれていました。
医療教会は、血の医療という医療ビジネスで成長し、多くの部署を抱える大組織になります。
その中で上位者研究を担当したのは「聖歌隊」と呼ばれるチームでした。
彼らはエーブリエタースや宇宙との交信を、熱心に試みました。聖堂街上層に拠点を置き、「宇宙は空にある」という意味深な言葉を残しています。
歌と交信
聖歌隊という名前そのものが、現代人にとってはミスリードになります。
聖歌と上位者研究が、頭の中で結び付かないからです。「なんで歌なの?」と思ってしまうことでしょう。
私たちからすれば奇妙に思えるこの名前は、中世キリスト教社会に根差しています。
中世ヨーロッパに実在した聖歌隊は、我々がイメージするような合唱団ではありません。
当時の歌は単なる娯楽ではなく、音を通じて神に賛美を捧げたり、交信を試みたりする意味合いを持っていました。
信者が一堂に会して祈り、聖歌隊が音によって神に語りかけ、皆で心を整えるとともに神の声を聞こうとする。これは信徒たちにとって、重要な宗教イベントでした。
つまり聖歌隊は、神が好む音を発することで、神と人間をつなぐ役割を担ったのです。
音楽は今でこそエンタメですが、宗教世界においては儀式の媒体でした。
音によって世界をつなぐ
Bloodborneの世界は、明らかに「音によって世界をつなぐ」ことを意識しています。
・狩人呼びの鐘
・小さな共鳴する鐘
・共鳴する不吉な鐘
・鐘を鳴らす狂女
・メルゴーの泣き声
・聖歌の鐘
・マダラスの笛
ここでは詳細を割愛しますが、それぞれ音による共鳴や振動が、異世界と接続する鍵になっています。
おそらくはこの流れで、「聖歌隊」という名前が採用されたのでしょう。
それでは、上位者研究を担当した聖歌隊が、音を通じて上位者と交信しようとしたのかと言えば、ゲーム中にそうした描写は目立ちません。
ややこしいことに、実在した聖歌隊から名前を拝借しておきながら、納期や帳尻の関係なのか、音を利用した研究の痕跡が描かれていないのです。
あるいは、自ら音を発することより、上位者の音を聞こうとしたことに重点があるのでしょうか。
そういう意味では、上位者の音を記録して文字にしようとしたカレルこそ、「聖歌隊的」な活動をしたと言えますが、彼は医療教会というより、ビルゲンワース寄りの人間でした。

聖歌隊とメンシス学派
医療教会の活動として、ゲーム中で印象に残るには、おぞましい人体実験の方でしょう。
しかし、彼らの人体実験すら、過激派に言わせれば生ぬるかったらしく、これに飽き足らない一派は、更に踏み込んだ実験や儀式を望むようになります。
すなわち、「メンシス学派」です。
聖歌隊が、神へ語りかける神官に近いとすれば、メンシス学派は、神を呼び出そうとする魔術師に近いイメージです。
詳しくは後述しますが、メンシス学派は、ヤハグル住民と誘拐した人間を生贄にしただけでなく、自分たちの肉体さえも捧げてしまいました。
精神さえ残ればよいと考えたのでしょうか。肉体はヤハグル最奥の儀式場でミイラになりました。そこまでして上位者を目指した狂信者たちです。
高位の聖職者・学者
上位者研究に携わったのは、医療教会の中でも高位にある聖職者、または学者だったようです。
聖歌装束
聖歌隊は医療教会最高位の聖職者であり、ビルゲンワースから始まった研究を継承する学者でもある。
そして、見捨てられた上位者エーブリエタースとともに、天空の徴を探している。
上層の鍵
医療教会には二つの上位会派があり、メンシス学派は隠し街に、聖歌隊は聖堂街上層に拠点を置く。
孤児から選ばれたエリート
聖歌隊の拠点・聖堂街上層で入手できる「孤児院の鍵」によれば、孤児院は聖歌隊の発祥の地とされています。
聖歌隊の隊員は、どうやら孤児の中から、優秀な者が選別されたようです。
選に漏れた子がどうなったかと言えば、明言はありませんが、おそらく人体実験で宇宙人モブにされたのでしょう。
そもそも孤児を大量に生むのは、獣化による被害であり、そして獣化の原因は「血の医療」にあるのですから、ここも相当に闇が深いと言えます。
エリートである当の聖歌隊員は、このマッチポンプを知っていたはずですが、信仰によって自らを納得させていたのでしょうか。
そして、聖歌隊が繰り返した人体実験の成果が、ボス「星界からの使者」と「失敗作たち」です。
失敗作が成功の部類なのですから、目も当てられません。
一時は灰血病を治療する功績をあげたものの、結果的にはヤーナム全体に不幸を撒き散らした医療教会は、多大な犠牲に見合う成果を出せませんでした。
ただ、人体実験はことごとく失敗したとは言え、一つだけ功績が残しています。
それは上位者エーブリエタースを発見して、囲い込んだことです。しかし、それ以上の進展はなく、結果的には彼女と星見をして戯れていただけでした。
メンシス学派の研究成果
一方、同じく医療教会の高位でありながら、聖歌隊と道を違えた過激派・メンシス学派はどうでしょうか?
彼らは誘拐事件・大量虐殺・死体損壊などの深い罪を犯した一方、上位者研究という意味では相応の成果を出しました。
メンシス学派は、聖歌隊の失敗作よりも、優れた失敗作を生むことに成功しています。何やら不思議な文章ですが。
彼らが生んだ、聖歌隊より優れた失敗作は二つあります。
一つ目はボス「再誕者」、二つ目は「メンシスの脳みそ」です。
再誕者
メンシス学派は、どうやら「量」を重視したらしく、肉体にしろ精神にしろ、量を集めて上位者に近づけようとした節があります。
一人の人間が一柱の上位者に及ばないのであれば、多数の人間を統合すればよいではないか、と単純に考えたようです。
そして彼らは、作中に明言はありませんが、おそらく2種類の儀式を行いました。
ひとつは、大量の肉体を生贄に捧げて、それを鐘を鳴らす狂女によって呼び戻すことです。
こうした生まれたのが、死体を継ぎ接ぎした異形の怪物「再誕者」と、ヤハグルの街で蠢くその出来損ないたちです。
継ぎ接ぎされた被害者は、メンシス学派が拠点を置いたヤハグルの住民と、人さらいが袋に詰めて誘拐したヤーナムの人々です。
主人公と尼僧アデーラも、一時はその危機に瀕したわけですから、あながち他人事とは言えません。
メンシスの脳みそ
それでは、もう一つの儀式は何でしょうか?
それはメンシス学派の学徒たちが、一堂に会して思念を統合し、上位者メルゴーの精神世界に侵入しようとする試みです。
詳しくは別記しますが、この時に「3本目のへその緒」を利用した可能性が高いです。
この試みは半分成功し、半分失敗しました。
メンシス学派は、メルゴーの精神世界に干渉して、「メンシスの悪夢」を形成しましたが、そこに囚われて現実世界に帰還できず、肉体が滅んでしまったからです。
ヤハグル最奥の儀式場には、学徒のミイラが多数放置されています。
その中心にあるミイラ(調べると教室棟2階に飛ばされる遺骸)は、おそらくは学派リーダー・ミコラーシュの滅んだ肉体でしょう。
肉体が滅ぶことを最初から想定していたのか、あるいは事故だったのかは分かりません。
ともあれ、ヤハグル住民の肉体を継ぎ接ぎしたのが「再誕者」だとすれば、学徒の精神を継ぎ接ぎしたのが「メンシスの脳みそ」だと思われます。
本当は、成体の上位者に干渉したかったのでしょうが、上位者としてはまだ力の弱い、赤子のメルゴーを標的にしたようです。

赤い月
私は当初、メンシス学派による儀式の目的は、赤い月を呼ぶことだと誤解していました。
正しくは、上位者を誘い出すことであり、その餌として「赤子メルゴーの泣き声」を利用したようです。
なぜメルゴーの泣き声が餌になるのかと言えば、「すべての上位者は子を失い、そして求めている」からです。
上位者の行動原理は、子を得ることでした。彼らは別に人間を敵視していません。
子を得るために人間世界に介入しているだけで、その過程で人を〇したり、発狂させたりすることがありますが、当の上位者はおそらく何とも思っていません。
上位者にとって、人間は取るに足らない存在だからです。詳しくは「上位者は子煩悩」をご参照ください。

思うに、赤い月は上位者の影響力が強まった結果です。
赤い月が上位者を呼ぶのか、上位者が来ると月が赤くなるのか、その因果は作中において明瞭ではありません。
しかし、メンシス学派が儀式でメルゴーの精神世界に干渉し、泣き声を利用して上位者の関心を引き、そして月が赤くなったと考えると、事象が綺麗につながります。
環境が整って、あとは偉大なる上位者の降臨を待つという時に、主人公が介入したのでしょう。
・「赤い月が近づく時、人の境は曖昧となり、偉大なる上位者が現れる」
メンシスは、ラテン語で「月」を意味します。
真相がどうであれ、メンシス学派は最初から、月と上位者の関係性を理解していたようです。

お手柄、偽ヨセフカ!
以上のように、医療教会の上位者研究は総じて失敗だったわけですが、ひとつだけ成功事例があります。
それはヨセフカの診療所を乗っ取った「偽ヨセフカ」です。
彼女は聖歌隊の所属と思われますが、赤い月の夜に上位者オドンの子を受胎することに成功し、殺害すると「3本目のへその緒」をドロップします。
上位者に接近したという意味でも、ゲームをプレイする上でも、重要な役回りを果たしました。

しかし、これが聖歌隊の研究成果だったのかと言えば、微妙と言わざるを得ません。
なぜなら、偽ヨセフカは、主人公の「月の香り」を瞬時に判別したことからも分かる通り、特別な血を持っていた可能性が高いからです。
ここで言いたいのは、聖歌隊の研究成果ではなく、偽ヨセフカという個体の性質による手柄ではないか、ということです。
聖歌隊が本拠を置いた聖堂街上層ではなく、下層の出先機関のようなヨセフカの診療所が、最も上位者に接近したというのは皮肉な結果です。
つづく。
注
この記事は個人の考察であり、フロムソフトウェア社の見解ではありません。
内容の正確性を保証するものではなく、作品をより楽しむための娯楽的推測であることをご了承ください。
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