「朝、起きれない」の治し方 (5)

「朝、起きれない」の治し方

メモして頭から出す

ツァイガルニク効果

 ベッドに入った瞬間、なぜか頭が冴えてしまう。返信していないメール、やるべき仕事、明日の予定など、さっきまで気にならなかったことが、次々と思い浮かぶ。

 こうした現象の背景には、心理学で「ツァイガルニク効果」と呼ばれる、人間の性質が影響しています。

 ツァイガルニク効果とは、「未完了の課題の方が、完了した課題より記憶に残りやすい」という心理現象であり、旧ソ連の心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが提唱しました。

 未完了の課題は、脳が「まだ終わっていない」と認識するため、緊張状態が解かれず、注意や記憶が持続しやすくなります。

 一方、完了した課題は緊張状態が解かれるので、注意が続きにくく、記憶の優先度が下がることになります。

 漫画やドラマなどは、この心理効果を巧みに利用しており、あえて中途半端なところで区切って、次回が気になるようにしています。

 人間の脳は、未完了の課題を完了させたがる性質があり、マーケティングや恋愛、エンタメなどで、よくこれが利用されていますが、実は睡眠とも深い関わりがあります。

 結論から言うと、睡眠においては、このツァイガルニク効果が発現「しない」ようにしなければなりません。

 未完了の課題があると、脳の緊張状態が続くため、入眠モードに入りにくくなるからです。

 たとえば、「あのことを彼に伝えないと」とか、「明日は午前中に、食材を注文しとかなきゃ」などと思うと、それが頭の中をめぐって、なかなか寝付けなくなります。

 部屋を暗くして就寝すると、外部刺激が少なくなりますから、どうしても内的な思考が強くなります。未完了の課題が、起きている時よりも、心や脳に引っ掛かりやすくなるのです。

頭から出しておく

 これを防ぐのは簡単で、就寝する前にメモに書いて、頭から出しておくこと。これで脳の緊張状態を解くことができます。

 仕掛かりの案件をメモに書き出すことで、脳は「これは記録した」「今は覚えておかなくても大丈夫」「後で処理できる」と認識します。

 この瞬間、未完了の課題は管理下に置かれた状態となり、ツァイガルニク効果が弱まって、思考がループしにくくなります。

 もちろんメモに書いただけでは、課題は完了していませんが、「これは明日やろう」と区切りを付けることで、疑似的な完了状態になるため、「忘れないようにしなきゃ」という意識が働きにくくなります。

 たとえ忘れても、外部に記憶されている、完了の見通しがあると思えれば、それだけで脳は安心できます。

 注意を引くためには、あえて未完了の状態で区切った方がよいですが、注意を鎮めるためには、意識して完了(または疑似完了)の状態にした方がよいのです。

 重要かどうかはあまり判断せず、少しでも気になることは、すべて書き出してしまった方がよいでしょう。明日の朝に「これは必要ない」と思ったら、そこで削除すればよいのですから。

 小さなことでも頭に引っ掛かることは珍しくありませんが、外に書き出してしまえば、気になることはありません。

 本当に不思議なもので、ベッドに入った直後に、「そう言えば、あれを忘れてた」と頭に浮かぶことはよくあります。

 就寝の前に、メモに書き出すことを心がけていてさえ、そういうことはなくなりません。

 そんな時、私はいったん起きて、メモに走り書きしてから、すぐベッドに戻ります。

 起き上がるのは確かに面倒なのですが、頭の中をかき乱されるよりマシだと何度も経験していますから、今では迷わずやっています。

ACTION
未完了の課題は、メモに書き出して、疑似的な完了状態にしておく

自然音に注意を引きつける

低音量で流しておく

 多くの人は、静かな環境ほど眠りやすいと考えていますが、実際は完全な無音状態より、小さな一定の音がある方が眠りやすいことがあります。

 特に効果的なのが、次のような自然音です。

・水が流れる音
・雨音
・鳥のさえずり

 これらは癒しの音でもありますが、上手く利用すれば、入眠を促してくれるありがたい手段になります。

 具体的には、こうした自然音を、あまり大き過ぎず、かすかに聞こえる程度の低音量で、就寝時に流し続けておくと、そこに注意が引きつけられて、ある種の瞑想状態になり、眠りに落ちやすくなります。

 おそらく多くの方が、音楽を聴きながら横になっていたら、いつの間にか昼寝してしまったという経験をお持ちでしょう。その効果を入眠に特化したものが、この自然音を低音量で流す方法です。

 私たちの入眠を妨げるのは、たとえば次のような音です。

・ドアを開閉する音、車両などが近くに来た音
・誰かの話し声
・誰もいないはずの場所で聞こえた物音

 これらは突発的な音、不規則な音、意味を持つ可能性がある音と言えます。

 こうした音を聞くと、脳は「何か起きたんだろうか?」「重要かもしれない」と注意を喚起されて、確認したがる結果、覚醒状態が続いてしまいます。

 自然音を低音量で流しておくと、眠りを妨げかねない周囲の音を、ある程度マスキングして隠してくれますし、隠せずとも相殺して、音を軽減してくれます。

 自然音自体は、突発的でも、不規則でも、意味を持つ訳でもないため、入眠の邪魔になることがありません。

 それどころか癒しの音ですから、脳に対するリラックス効果があり、副交感神経が優位になって心拍や呼吸が落ち着き、眠りに落ちやすくなります。

 そして重要なのは、注意を音に引きつけることで、ある種の瞑想状態になることです。

 瞑想は呼吸に意識を集めて雑念を消しますが、水の流れる音や雨音に意識が吸着されると、これに似た効果が生じます。

 眠れなくなる要因は複数ありますが、その内の一つは「思考がループすること」です。

 考えが堂々めぐりして、なかなか脳の緊張状態を解除できず、入眠モードに入れません。特にネガティブ感情が結び付いた時は厄介です。

 しかし、自然音を低音量で流しておけば、適度に意識を引っ張ってくれるので、ループし辛くなります。ぐるぐると回ってしまう思考が、自然音に吸い取られていくイメージです。

 眠ろうとしている最中に、多少気になる物音や話し声があったとしても、それほど執心することなく消えていきます。

困った時の味方

 私は自宅でもよく自然音を流していますが、個人的に大いに助かったのが、外国のホテルに宿泊していた時でした。

 ホテルは予約しても、部屋までは指定できません。そのホテルの都合や、受付スタッフの気まぐれで、好ましくない部屋に当たることはよくあります。当時の私は、ほぼ安宿を選んでいましたから尚更でした。

 外国では日本の常識が通じないので、時にはおよそ入眠に適さない環境に置かれることがあります。

 たとえば、本当に信じ難いのですが、ホテルのすぐ隣で、日没から深夜にかけて、大音量のライブをやったりします。

 私はそんな時、インナーフォンを耳に突っ込んで、音楽や自然音を流して、なんとか眠っていました。30代の頃は海外旅行が好きで、よく外国のホテルに滞在しましたので、何度これに救われたか分かりません。

 また、私の父はひと頃、不眠症に悩んでいたのですが、先にご紹介したメラトニンサプリと、この自然音を併用することで、睡眠状態がかなり改善しました。

 睡眠トラブルの解決で活躍してくれた記憶が強いので、普段使いも勿論できるのですが、個人的には「困った時のお助け手段」という印象があります。

 注意すべき点は、かすかに聞こえる程度の音量を心がけることで、音を大きくし過ぎてはいけません。

 はっきり聞こえる音量だと、たとえ癒しの音でも、リラックスではなく覚醒に作用してしまいます。

 また、睡眠中は覚醒時より聴覚が敏感になるため、途中で目を覚ます可能性が増えます。

 就寝する時は、たいして大きい音ではないと思っても、夜に中途覚醒した時は、「こんなに大きな音にしてたかな」と感じます。

 かすかに聞こえる、時々音を見失う(聞き取れなくなる)程度の音量にしておくのがコツです。

 なお、専用の音楽プレーヤーが望ましいですが、スマホを利用する場合は、前述「スマホを離しておく」でご説明した理由で、ベッドから距離を離しておくことをお勧めします。

 自然音は、音源となる商品を購入してもよいですし、YouTubeの無料動画などを利用してもよいでしょう。

ACTION
癒し効果のある自然音を、かすかに聞こえる程度の低音量で流しておく。

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