「朝、起きれない」の治し方 (2)

「朝、起きれない」の治し方

自己暗示をかける

 大事な仕事で絶対に遅刻できない。あるいは、楽しみで仕方ない予定がある。

 そんな朝は、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた、という経験がある方は多いのではないでしょうか。

 これは偶然ではありません。人間の脳は、眠っている間も完全に休んでいるわけではなく、「明日は何時に起きるべきか」という情報を、きちんと処理しています。

 就寝前に「明日は〇時に起きる」と強く意識すると、その時刻に向けて覚醒の準備を進める仕組みが、もともと備わっているのです。

 一種の自己暗示ですが、やり方はとてもシンプルです。難しい技術は必要ありません。

 夜、ベッドに入り、目を閉じた状態で、「明日は〇時に起きる。明日は〇時に起きる」と、心の中で繰り返します。

 念仏を唱えるように、淡々と、しかしはっきり意識することが大切です。

 この時、起きられるだろうか、無理かもしれないといった不安は、できるだけ脇に置いてください。

 自己暗示は、疑いながら行うと効果が弱まります。あれこれと考える必要はありません。「ただ、そう決める」だけでよいのです。

 カーテンを開けて眠り、窓から差し込む朝陽を浴びていれば、体は起きる準備を整えています。

 あらかじめ、自己暗示という「体内目覚まし時計」をかけておけば、すんなり目覚めることができるでしょう。

 最初は驚くかもしれませんが、何度か経験すると当たり前になります。

 これに慣れてくると、目覚まし時計の役割も変わってきます。

 鳴る前に目覚めることが普通になり、起きるためのアラームが、徐々に保険のような位置づけになっていくでしょう。

 ただし、一つだけ注意点があります。それはせっかく目が覚めたのに、「まだ少し時間がある」と思って、目を閉じたままにしてしまうこと。

 これをやると、二度寝しかねません。目が覚めたら、すぐに目薬を差して、太陽の光や天井照明の光を目に入れるようにしてください。

 起きやすいチャンスに、一気に覚醒させてしまうのです。

ネガティブな暗示をかけない

 もう一つ、大切な話をします。自己暗示は、良い方向にも悪い方向にも働きます。

 自分は朝が弱い人間だ、どうせ起きられないなどと思い込んでいると、脳はそれを前提条件にするため、本当に起きにくくなってしまいます。

 理想を言えば、「自分は朝に強い、いつもすっきり目が覚める」と信じている状態が望ましいですが、最低限「自分には無理だ」という決め付けは避けてください。

 ただ思うだけでは弱いかもしれませんが、本書で紹介する対策パッケージを実践すれば、少しずつ「起きられた」という事実が積み上がります。

 そうすれば、思い込みは徐々に書き換わっていきます。

 自己暗示は、仕事やスポーツなどで成果を出す人たちが、例外なく使っているスキルの一つです。それを睡眠にも活用して、脳を味方につけてください。

ACTION
就寝した時、「明日の朝は〇時に起きる」と自己暗示して、体内目覚まし時計をかける。

夜食を食べない

 太陽の光で体を起こす。目薬で目を起こす。その流れで自然に頭を起こす。

 そして、より抵抗を減らすために、眠る時に自己暗示をして、「体内目覚まし」をかけておく。

 睡眠時間が極端に短い、あるいは睡眠の質が極端に悪いといった問題がない限り、このやり方で無理なく起きることができるでしょう。

 それでも朝が辛い場合、次に見直したいのが「睡眠そのもの」です。

 特に、食事の摂り方は、睡眠の質に強く影響します。ここでは食べ過ぎないこと、とりわけ夜食を避けることについてお話しします。

 私たちは毎日、当たり前のように食べ、消化吸収し、排泄しています。しかし、これは実は大変なことなのです。

 消化はしばしば「人体最大のストレス」と表現されるほど、体に大きな負担をかけます。

 その負荷は、長時間の運動や肉体労働に匹敵するとも言われます。

 運動や労働の場合は、疲れを感じることができますが、消化は意識の外で進むため、どうしてもその負担を過小評価しがちです。

 私たちは普段、ほとんど意識していませんが、内臓は食後ずっと、重い負担に耐えながら、働き続けているのです。

 ヨガの導師である沖正弘氏は、「一日三食なら9時間、二食なら6時間、一食なら3時間の睡眠になる」と説きました。

 この数字が正しいかは別として、一日一食、あるいは二食を実践している人たちは、口を揃えて「睡眠時間は自然と短くなったが、体調はむしろよくなった」「日中の活動時間が増えた」と語っています。

 この体験談が示唆しているのは、食事量が少なければ、それだけ体の負担が軽くなり、長時間の睡眠を必要としなくなる可能性が高い、ということです。

 よく高齢者は、睡眠時間が短くなると言われますが、これは高齢者の体が、若い頃ほど睡眠を必要としなくなることに加えて、食が細くなることや、油っぽい料理を好まなくなることも原因でしょう。

 ファスティング(断食)を、一日でも試したことがある人は、次の朝にいつもよりだいぶ早く目が覚めて、しかも頭がすっきりしていた、という経験があるのではないでしょうか。

 その理由は、消化ストレスがなかったからです。

 特に避けたいのが「夜食」です。就寝の前3時間前は食べない方がよいと言われますが、これは理にかなっています。

 胃腸が食べ物を消化するには、胃での消化に2~4時間、小腸での消化吸収に4~6時間と言われており、夜食を食べてすぐ眠ると、睡眠中も内臓は消化活動を続けなければなりません。

 血流が内臓に集中する結果、体が休息モードに入り切れなくなります。

 整理すると、次のような流れになります。

夜遅くに食べる。
→睡眠中も消化が続く。
→内臓が休めない。
→睡眠の質が下がり、朝に起き辛くなる。

 睡眠の質が落ちれば、どれだけベッドに長くいても、回復感を得ることはできません。結果として、朝はますます起き辛くなります。

 とは言え、どうしても小腹が空く夜もあるでしょう。その場合は、バターをほんの少し、口に含んで舐めるとやり過ごしやすくなります。

 脂肪分は空腹感を紛らわせやすく、少量でも満足感があります。

 糖質と違って、後を引かないのも利点です。糖質は少し食べると、もっと欲しくなってしまいます。

 肉を少し食べるのも選択肢ですが、美味しい分、ひと口で止まらなくなりがち。その点、バターだけだと素っ気ない味なので、量を抑えやすいと言えます。

 バターをそのままつまむか、具なしのバター味噌汁を一杯飲む程度にしておきましょう。それだけでも、空腹感は十分に弱まります。

ACTION
夜食を食べない。
就寝の前3時間以内に、食べ物を口に入れない。

深部体温リズムを利用する

 人間の体には、睡眠に強く関わる二つの生理的リズムがあります。

 サーカディアンリズムと深部体温リズムです。この二つを理解し、意図的に整えることで、劇的に入眠しやすくなります。

サーカディアンリズム

 サーカディアンリズムとは、人間を含む多くの生物が持つ、約24時間周期の体内リズムであり、睡眠と覚醒、体温、ホルモン分泌などを規則正しく切り替える役割を担っています。

 中心となるのは、脳の視床下部にある視交叉上核という部位。

 ここが体内時計の司令塔として働き、目から入る光の情報をもとに、全身のリズムを調整しています。

 朝に光を浴びると、体内時計がリセットされて、覚醒モードに切り替わります。

 逆に夜になると、松果体からメラトニン(睡眠ホルモン)が分泌されて、眠気が強くなります。

 この仕組みがあるため、人間は「起床した時間」を基準にして、眠気の波が現れます。

 具体的には、「起床した時間から8時間後」と、「起床した時間から16時間後」に、眠気を生じるようになっています。

 たとえば、朝7時に起きた場合を考えてみましょう。

7時 起床
7+8=15時頃 軽い眠気
7+16= 23時頃 本格的な眠気

 8時間後の15時頃に訪れる眠気は、生理的に自然なものです。この時間帯に重要なのは、眠気に振り回されないこと。

 甘いお菓子や多量の糖質を摂ると、インスリンが分泌されて、さらに眠気が強まりやすくなります。遅めの昼食には注意してください。

 昼ご飯の糖質を制限するのも、眠気を防ぐ上では選択肢になります。

 一方、眠くなりやすい時間だと割り切って、5~10分程度の短い昼寝を、あえて積極的に取るのも一つの方法です。

 これは「パワーナップ」と呼ばれ、午後の眠気を飛ばして、その後の集中力を高める効果があります。

 生産性にこだわるビジネスパーソンによく紹介されるので、ご存じの方も多いかもしれません。

 これに対して、16時間後の23時頃に訪れる眠気は非常に重要です。ここは体が「眠る準備が整った」と知らせてくれるゴールデンタイム。

 このタイミングを逃してしまうと、眠気が一度引いてしまい、ベッドに入ってもなかなか寝付けなくなります。

 その結果、睡眠不足となり、翌朝さらに起きられなくなるという悪循環に陥ります。

 「眠るべき時間を逃がして、眠れなくなった」という経験は、誰しも何度かはあることでしょう。その眠るべき時間こそ、起床した時間の16時間後です。

 動画視聴やゲームなどをしていると、つい夜更かししてしまいがちですが、あらかじめこのリズムを意識して、時間の計画を立てておくことをお勧めします。

深部体温リズム

 深部体温リズムとは、体の内部の温度が、一日の中で周期的に変動する生理的なリズムです。

 サーカディアンリズムの一部であり、睡眠と非常に深い関係を持っています。

 深部体温とは、脳や内臓など体の中心部の温度のことで、皮膚や脇の下で測る体温とは異なります。

 深部体温は、日中から夕方にかけて高くなり、夜に向かって徐々に下がっていきます。入眠後も低下し続けて、明け方に最も低くなります。

 重要なのは、この「下がる過程」が眠気を生む、という点です。

 人間は深部体温が下がり始めると、自然に眠くなり、下がり切った状態で、より深い睡眠に入ります。

 つまり、自然に入眠するためには、深部体温がスムーズに下がる流れを作ることが重要です。

 ここで役立つのが「入浴」です。

 入浴すると、深部体温は一時的に上昇します。しかし、その後、体は熱を外に逃がそうとして、反動で深部体温が下がります。

 この低下が起こるのが、入浴のおよそ1~2時間後で、このタイミングは入眠しやすくなります。

 なぜ1~2時間の振れがあるかというと、お風呂の入り方に個人差があるからです。

 あまり長湯せず、すぐに上がってしまう人は、深部体温が大きく上がらず、下がっていくのが相対的に早くなります。

 長湯する人はその逆で、深部体温が十分に上がるので、下がり始めるのが相対的に遅くなります。

 波が高くなる分、よく温まる人の方が、強く眠気を感じることになります。

 よく「シャワーだけでは足りない。きちんと湯舟に浸かりなさい」と言われますが、その理由の一つは、深部体温の波を作って、入眠しやすくすることにあります。

 他にも温熱・水圧・浮力などの刺激を全身に与えることで、副交感神経が優位になり、リラックスしやすいという利点もありますが、これも入眠の準備を整える上で、大事な効果と言えるでしょう。

 シャワーだけでは、これらの恩恵は期待できません。

 深部体温の流れを簡単に表すと、次のようになります。

時間帯
夕方 高い
夜  低下開始
深夜 低い

 ここまでの話を踏まえれば、質のよい睡眠、そして朝の起きやすさを作るためにやるべきことは明確です。

 それは「起床した時間+16時間後」に、「入浴の1~2時間後」が重なるように、生活を組み立てることです。

 たとえば、朝7時に起きた場合、23時頃に強い眠気が来ます。
 そこから逆算して、21~22時頃に入浴しておくと、深部体温の低下による眠気とピークが重なります。

 この状態でベッドに入れば、無理に頑張らなくても、自然と眠りに落ちやすくなるでしょう。

 朝、起きられないという悩みは、夜の過ごし方の結果であることがほとんどです。

 気合いや根性で朝を変えようとするのではなく、体のリズムを理解し、整えることが近道です。

 今日からすべてを完璧に行う必要はありません。まずは今日の起床時刻を覚えておき、そこから16時間後を意識すること。

 そこから初めて、徐々に自分のリズムを作っていくとよいでしょう。

ACTION
「起床時間+16時間後」に訪れる眠気に、「入浴+1~2時間後」に訪れる眠気を重ねて、自然な眠気を作る。

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