牛乳の健康リスク
「牛乳は体によい」というのは、ひと頃は常識でした。
私が小学生だった昭和60年前後(1980年代)、学校の給食でも毎日必ず牛乳が出されましたし、「大きくなりたければ牛乳を飲みなさい」「骨を強くしたければ牛乳を飲みなさい」などと、慣用句のように言われたものです。
私自身もそれを疑うことなく、20代までは「健康のために牛乳を飲もう」と、今にして思えば的外れな努力をしていました。

しかし、その後の医学的知見やエビデンスに基づくと、牛乳は必ずしも体によいわけではなく、むしろ注意すべき健康リスクをはらむことが明らかになりました。
牛乳に関する「信仰」は、若い世代の方にも意外と残っているようなので、今更ではありますが、情報を整理しておきたいと思います。
乳糖不耐症
乳糖(ラクトース/牛乳に含まれる糖分)を分解するには、ラクターゼという酵素が必要ですが、日本人の成人の8~9割は、この酵素が少ない「乳糖不耐症」であると言われています。
つまり、日本人には、遺伝子レベルのミスマッチがあるということです。
乳糖が分解されないまま大腸に届くと、お腹のゴロゴロ、下痢、腹痛、ガスだまりなど、消化器系の症状を引き起こします。
「牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなる」という人は少なくありませんが、その原因は乳糖を上手く分解できないからです。
この症状がよく出てしまう子供は、本能的に牛乳を嫌うのですが、学校の先生が「体にいいから飲みなさい」「残しちゃいけません」などと言って飲ませてしまう例が、私の小学校時代はよくありました。

我が家もそうでしたが、多くのご家庭で、母親が子供の健康を願って、牛乳を飲むように誘導していたのではないでしょうか。
欧米諸国では、古くから酪農が発達しており、長い歴史の中で乳糖の分解能力を獲得してきました。
しかし、日本で牛乳が一般的に飲まれるようになったのは戦後であり、アメリカの占領下で積極的に普及活動がされてから、わずか70年ほどしか経っていません。
歴史の流れで見れば、日本人にとっては牛乳に限らず、乳製品自体が「新しい食物」です。
生物が新しい食物に適応するには、短くとも数百年の年月が必要ですので、日本人の遺伝子や腸内環境は、まだ乳製品に適合していません。
やや刺激的な言い方をすれば、日本人の遺伝子に合わない食物なのです。
強い個体にとっては何ともなくても、弱い個体にとっては体調不良の要因になることがあります。

カルシウム・パラドックス
それでは、乳糖の分解能力を獲得した民族にとっては、牛乳は体によいのかと言えば、残念ながらそうでもありません。
確かに牛乳は、タンパク質や脂質、ビタミンミネラルを豊富に含んでおり、カロリーも高いため、効率的に栄養摂取できる優れた面があります。
特に食糧難や栄養不足が課題だった時代には、重宝されたことでしょう。
しかし、牛乳はメリットとデメリットがある、わりと難しい食物であり、その性質を理解した上で適量を摂取する必要があります。
牛乳を飲む目的が「カルシウムを摂取して骨を強くすること」である人は多いでしょうが、実は牛乳を飲むほど骨がもろくなってしまう可能性が指摘されています。
骨を強くするつもりが、逆に弱くなってしまうことから、カルシウム・パラドックス(またはミルク・パラドックス)と呼ばれます。
これを裏付けるエビデンスは多く、欧米諸国では牛乳をよく飲む人ほど、骨粗しょう症や骨折の率が高いというデータが出ています。

牛乳はカルシウム含有量が多く、吸収率も約50%と高いため、摂取すると血中のカルシウム濃度が急上昇します。
しかし、体はこの急激な変化を「緊急事態」と判断します。
人間には、体内の状態を一定に保とうとする働き(ホメオスタシス)があるため、上がり過ぎたカルシウムを下げようとして、腎臓が尿として排泄しようとするのです。
ここで、適量だけを排泄できればよいのですが、急激な変化に対して緊急対応するため、そのような繊細な調整ができません。
慌てて排泄する結果、今度は逆に血中のカルシウム濃度が、適正域よりも低くなってしまいます。
その際、血中濃度を元に戻すために、逆に骨に貯蔵されていたカルシウムが溶け出す「脱灰(だっかい)」という現象が起こるのです。
整理すると、次のような流れになります。
・牛乳を飲むと、血中のカルシウム濃度が急激に上がる。
・体が急激な変化に驚いて、腎臓から一気に排泄しようとする結果、逆にカルシウム濃度が下がってしまう。
・カルシウム濃度を適正域に戻すため、骨に貯蔵していたカルシウムを放出する。
なお、カルシウムの血中濃度が急激に上がったり、下がったりすることを繰り返すと、カルシウムが石灰化して血管壁に沈着し、動脈硬化の一因になり得る点も注意したいところです。
酸負荷
牛乳が脱灰を起こしやすい理由は、他にも指摘されています。
牛乳に含まれる動物性タンパク質を体内で分解した場合、その老廃物として酸が発生します。
含硫アミノ酸(メチオニン、システインなど)が代謝されると、硫酸が生じて酸負荷がかかることになります。
血液のpH濃度は本来、弱アルカリに保たれていますが、動物性タンパク質を摂取すると、これが酸性に傾き始めます。
そうすると体は、血液を中和して弱アルカリ性に戻すために、カルシウム(アルカリ性ミネラル)を骨から動員して放出します。
このプロセスによっても、骨のカルシウムが失われると言われます。

酸負荷は、動物性タンパク質の分解によって生じますから、牛乳だけに限らず、肉類・卵・乳製品などに広く当てはまります。
美味しいものが多いですが、適量を意識することや、野菜を増やしてアルカリ負荷とのバランスを取ることが大事です。
カルマグバランスの崩れ
カルシウムとマグネシウムは、どちらも体に必要な栄養であり、協働して作用することから、その比率が重要になります。
これは「カルマグバランス」と呼ばれており、その理想的な比率は「カルシウム1~2」に対して、「マグネシウム1」とされています。
しかし、牛乳は「カルシウム11:マグネシウム1」と極端に偏っており、カルマグバランスが崩れています。
骨の形成にはカルシウムだけでなく、マグネシウムも不可欠なので、このバランスの悪さが、逆に骨の強化を妨げる原因になってしまいます。
なお、これは牛乳に限った話ではなく、乳製品は全般的にカルマグバランスが崩れていますので、乳製品が好きな方は注意してください。
カルシウムとマグネシウムは、ペアを組んで働きます。
その役割をざっくり説明すると、カルシウムは「興奮・収縮・スイッチオン」であり、マグネシウムは「鎮静・緩和・スイッチオフ」になります。

これらの作用は神経・筋肉・血管に広く及ぶため、全身に影響するのですが、たとえば筋肉を例にすると、カルシウムが筋肉を収縮(緊張)させて、マグネシウムが緩和(弛緩)させます。
ここで、カルシウム側にバランスが崩れてしまい、カルシウム過剰・マグネシウム欠乏の状態になると、筋肉の収縮ばかり起きて、緩和が適切に行われません。
結果として、筋肉がこわばりやすくなり、酷い場合はつってしまいます。
特にふくらはぎがつりやすい人は、カルシウム過剰・マグネシウム欠乏を疑った方がよいでしょう。
全身がこのように、言わばアクセルばかりが効いて、ブレーキが効きにくい状態になるので、筋肉の緊張のほか、様々な影響が生じることになります。
たとえば、肩こり・頭痛・こむら返り・歯ぎしり・不整脈・高血圧・不安・焦燥感・動悸・不眠・中途覚醒・便秘などです。
つづく。
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