誰か、助けてください
Bloodborneという作品は、ゲーム界において明らかに異彩を放っています。
ソウル本家による傑作であること、並びに稀に見る陰鬱な世界観であることは言うに及ばずですが、もう一つ際立つ点があります。
それはラスボスが、気の毒なお爺ちゃんであることです。
次の発言を見てください。車椅子でうつらうつらしながら、こんな辛そうな寝言をぼやくお爺ちゃんが、本編のラスボスなのです(ルートによっては前座)。
あぁ、ローレンス…、ウィレーム先生…。
誰か、助けてください。誰でもいい、解放してください…。
私は夢に疲れました。
もう、この夜に何も見えないのです。
あぁ、誰か…。ううう、あぁ…。
いざ立ち上がって鎌を振り回せば、けっこう元気だったりするのですが。
誰かと言えばもちろん、「狩人の夢」の管理人にして、新米狩人のコンシェルジュ、ゲールマンその人であります。
彼は若かりし頃、漁村で重大な過ちを犯しましたが、基本的には作中で珍しいほどの善人です。少なくとも、悪事に葛藤する程度の心は持っていました。
そして、上記の寝言からも分かる通り、十分な罰を受けたと言えます。

青ざめた月との邂逅
ゲールマンは、なぜ「狩人の夢」の管理人なのでしょうか?
それは彼が、3本目のへその緒を媒体にして月の魔物と接触し、契約を結んだからです。
捨てられた古工房に残されているへその緒には、次のようなテキストがあります。
・故に、これは青ざめた月との邂逅をもたらし、それが狩人と、狩人の夢の始まりとなったのだ。
青ざめた月とは月の魔物を指しています。
主人公は「青ざめた血」を求めて狩人になりました。真エンドのラスボスが月の魔物なので、これが青ざめた血を持つ存在と考えるのが、物語的には整合します。
また、作中では次のようなメッセージがありました。
・ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」
制作者である宮崎氏は、インタビューで次のように語っています。
・「青ざめた血」は、とある状態の月から現れるモンスターの別の名前です。
赤い月の夜に降臨した月の魔物は、まさしくこれに該当します。

自発的に招き寄せた
前掲『ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」』というメッセージは意味深です。英語表記だと、次のようになります。
The nameless moon presence beckoned by Laurence and his associates. Paleblood.
直訳すると、「ローレンスとその仲間が招いた、名もなき月の存在。それは青ざめた血」になります。
見逃せないのは、自ら招いた(beckon/誘う・手招きする・合図する)という表現です。
つまり、ローレンスとゲールマンは、3本目のへその緒を利用して、自発的に月の魔物に接触したことになります。
後にミコラーシュが、3本目のへその緒を利用して、メルゴーに接触したのと同じように。
ローレンスの思惑
ローレンスとゲールマンは、なぜ月の魔物との接触を望んだのでしょうか?
先にローレンスから考えます。彼の動機は主に、獣化の被害を抑え込むことでしょう。
医療教会は、ヤーナムで血の医療を推進しましたが、それは同時に獣化を拡大することになりました。
ローレンスは、盟友ルドウィークが率いる教会狩人と、狩人の夢に属する不死の狩人によって、獣狩りを強化したかったのだと思われます。
血の医療(獣化の原因)をやめる発想がなかったのが残念ですが、この時点ではまだ、解決可能な副作用だと踏んでいたのでしょうか。
結局、ローレンスもルドウィークも、自らが血に呑まれて獣化したため、その目論見は外れました。結果論としては、作中の代表的な愚者になっています。
なお、上位者研究をしたいという動機も、当然ながらあったことでしょう。

ゲールマンの思惑
問題はゲールマンです。夢の管理人という罪科のような役目を、彼が志願した理由は何でしょうか?
理由は幾つか考えられます。
一つ目は、狩人を支援することです。
ゲールマンは最初の狩人として、その基本形を規定しました。仕掛け武器と水銀弾という、狩人独特の戦闘スタイルは彼に始まります。
しかし、探索と獣狩りを専門とする狩人は、非常に厳しい仕事でした。
獣狩り自体が危険な任務ですが、獣を倒してその血を浴びると、徐々に精神を消耗して蝕まれ、最後には自らが獣化する可能性があります。
また、獣化しないまでも、血に酔って正気を失ったり、狩りに憑りつかれて抜け出せなくなる恐れがあります。
ゲールマンは、狩人が置かれたこうした過酷な状況を、少しでも改善したいと考えていたのかもしれません。
実際、狩人の夢には、狩人たちを支援するシステムが整っており、拠点として相応しい場所になっています。
その構想は既に、古工房として実行されていましたが、更に月の魔物の力として、「死んでもまた目覚める」という特性が加わることになります。
贖罪とマリア
二つ目は、贖罪の意識です。
彼は漁村の虐殺に加担したことを、深く後悔していました。事件そのものに限らず、マリアを失ったことも強く影響しています。
マリアが罪の意識から自死を選んだように、ゲールマンもまた同様の葛藤に苦しんでおり、そこに愛する女性を失った悲しみが上乗せされました。
当時の彼の精神状態として、夢に逃避したかった可能性は十分あります。
そして、推測の域を出ませんが、ゲールマンは月の魔物の力が、マリアを復活させ得るのではないかと、一縷の希望を持った可能性があります。

マリアを模した人形は、狩人の夢において、ゲールマンを慰める唯一の存在でした。
ゲールマンは夢の中でマリアと暮らし、狩人を支援することを選んだのだと考えると、事象は綺麗につながります。
おそらくは自死がよぎっていたであろう彼は、別の形で現実世界を捨てたのではないかと、私は推測しています。
古工房で取得できる髪飾りを人形に渡すと、彼女は不意に涙を流します。
マリアの人形はこの時、髪飾りに込められたゲールマンの強い思念を、無意識に感じ取ったのではないでしょうか。
なお、ゲールマンの肉体はおそらく既に滅んでいます。作中に情報はありませんが、遺体は古工房にあると考えるのが最も自然だと思います。
ただし、古狩人の遺骨はゲールマンのものではありません。これはマリアの遺骨です。
エンドが意味すること
Bloodborneのエンディングは、条件によって次の3つに分岐します。
A ゲールマンに介錯されて、普通の人間として目覚める。
B ゲールマンの代わりに、夢の管理人になる。
C 上位者の幼体になる。
Bloodborneの世界は、終始陰鬱ではありますが、エンディングには珍しく優しさが見られると、私は考えています。
通常エンド
まず、通常エンドとされるパターンAです。
ゲールマンに介錯されて、普通の人間として目覚めるこのエンドは、鎌で首を落とされる強烈な映像から、目にした時はおよそ良い印象を抱けません。
しかし、これは月の魔物との契約を解除して、夢から解放されることを意味しますから、紛れもなく救済と言えます。
普通の人間として、現実世界に戻ることが幸せかどうかはさて置き、獣狩りと死の無限ループから解脱したという点は、ポジティブに捉えてよいでしょう。
介錯を担当したゲールマンの方は、契約を解除することができません。
冒頭で紹介した寝言が示す通り、ゲールマンは疲れ果てていますが、彼はそれでも、夢に囚われた狩人を救う役目を果たそうとします。

管理人エンド
次に、ゲールマンを倒して、代わりに夢の管理人になるパターンBです。
これは通常エンドとは逆に、主人公がゲールマンを救済する終わり方です。
「誰か、助けてください。誰でもいい。解放してください」と、うなされるように零していたゲールマンは、このエンドで無事に解放されることになります。
その代わり、主人公は2代目ゲールマンになるわけですから、主人公にとっては酷い終わり方と言えるでしょう。
やる気まんまんで鎌を振るのも、最初の数年だけです。
真エンド
最後は、ゲールマンに続いて月の魔物を倒し、上位者の幼体になるパターンCです。
主人公は物語の始まりで、輸血を受ける前に「青ざめた血を求めよ。狩りを全うするために」という、自筆の走り書きを残しました。
その初心を達成しているため、これが真エンドと言ってよいでしょう。
自身の目的を果たした上、管理人ゲールマンを解放しているのですから、一応ハッピーエンドということになります。
上位者の幼体になった姿を見て、ハッピーと思える胆力がある人が、どれだけいるかは甚だ微妙ですが。
いずれのパターンにせよ、救いのない破滅的な終わり方ではなく、誰かしら救済されているのが興味深いところです。
つづく。
注
この記事は個人の考察であり、フロムソフトウェア社の見解ではありません。
内容の正確性を保証するものではなく、作品をより楽しむための娯楽的推測であることをご了承ください。
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