月の魔物の意図
月の魔物を招いたローレンスとゲールマンには、それぞれに思惑がありましたが、それでは月の魔物の側には、どのような意図があったのでしょうか?
代理となる子
これは上位者一般に通じる「子を求める」という行動原理が、影響していると考えるべきしょう。
・すべての上位者は子を失い、そして求めている。
この重要な一文は、英語表記を見ると更に示唆があります。
Every Great One loses its child, and then yearns for a surrogate.
それぞれの事情によって子を失った上位者は、新しい子を求めていますが、その対象はanother childではなく、surrogate(代理)とされています。
ここが面白いというか、ややこしいというか、人間には理解しにくいところです。
上位者は皆が子を求めていますが、それは自分の嫡流に限りません。血統にこだわるのではなく、ただ「代理となる存在」を求めているようです。

子を得るための媒体
これを踏まえると、月の魔物側の思惑としては、二つ考えられます。
一つ目は、狩人を子のような存在と見ていた可能性です。
狩人は上位者ではありませんが、人間にしては優れた個体であり、広い意味での代理になったのかもしれません。
二つ目は、狩人を媒体にして、上位者の子を求めていた可能性です。こちらの方が筋としては真っ当でしょう。
白痴の蜘蛛ロマを思い出してください。ロマは優れた学徒であり、上位者の器として珍しく適格がありました。
「適格がある」とは、おそらく高い啓蒙に耐え得る、抜きん出た知性と精神力を持っているということでしょう。
ロマはゴースの遺物によって瞳を与えられ、上位者(の眷属)に変容しました。しかし、ロマですら不十分だったらしく、白痴という欠陥を抱えています。
月の魔物は、狩人の夢を通じて狩人を集め、そして選別して、上位者の器に相応しい個体を得ようとした可能性があります。
眼鏡に適う個体を見つけ、それに瞳を与えて上位者に変容させれば、代理となる子を得られるからです。
結果的には、その個体に討伐されてしまうわけですが、主人公は上位者の幼体になるのですから、「子を得る」ための手段としては、正しい路線だったことになります。
自らも生きて、親として子を得れば最良だったのでしょうが、残念ながら子だけが残りました。
月の魔物は悪なのか?
月の魔物は「悪」なのでしょうか?
ここがBloodborneの面白いところです。それはおそらく悪ではありません。
そもそも上位者は、人間側の善悪や価値観が通用せず、ただ「子を得る」という行動原理に従って動いているだけです。
人間側は、上位者という存在にコズミックホラーを感じていますが、上位者側からすれば、人間は取るに足らない存在であって、別に敵視はしていません。
子を求める活動を通じて、人間が〇ぬことがあったとしても、大して気には留めていないでしょう。私たちがアリを踏み潰した時と同じように。
月の魔物が、人間世界で悪事を働いていたかと言えば、実際はその逆です。
ゲールマンと一緒に、狩人の救済システムを提供することで、ヤーナムの獣化被害を軽減しているので、むしろ世界の維持に貢献しています。
何度となく命を落とした主人公も、月の魔物のお陰で再び目覚めることができたわけですから、恩人と言えなくもありません。
唯一、被害者らしい被害者は、夢に囚われて疲れ果てているゲールマンです。

知性ある律義者
月の魔物の素敵なところは、上位者にしてはコンプラがしっかりしているというか、きちんと誓約書を書かせることです。下等生物(人間)に対する傲慢さがありません。
このあたり、いきなり人さまを掴んで、移動させてしまうアメンドーズとは品位が違います。
主人公もオープニングにおいて、輸血を受ける前に誓約書を提出しています。
ほう、青ざめた血ねえ。
確かに、君は正しく、そして幸運だ。
まさにヤーナムの血の医療、その秘密だけが君を導くだろう。
だが、よそ者に語るべき法もない。
だから君、まずは我ら、ヤーナムの血を受け入れたまえよ。
さあ、誓約書を。
よろしい、これで誓約は完了だ。
それでは輸血を始めようか。なぁに、何も心配することはない。
何があっても、悪い夢のようなものさね。
ゲールマンはすべてを知りながら、「よそ者には教えない。早く誓約書にサインしなさい」と急かしています。
月の魔物に比べると、やり口が少し野蛮なのが、じわじわ来るシュールなポイントです。
ここで登場する老人は、狩人の夢にいるゲールマンと若干見た目が異なりますが、声優が同じであること、及び契約に立会う職責を考慮すれば、やはりゲールマンであると考えるべきでしょう。
混濁する意識の中で
ゲールマンは、なぜヨセフカの診療所に現れたのでしょうか?
彼の肉体はおそらく既に滅んでいます。
そうであれば、この誓約イベントは現実世界のことではなく、混濁する主人公の意識の中で起きたと考えるのが妥当でしょう。
ゲームの開始時、主人公の視界はかなり異常です。
画面がぼやけており、意識が朦朧としている状態が示唆されます。
主人公は何らかの病を治すために、医療の街ヤーナムを訪れた異邦人でした。
しかも、その症状は重度だったらしく、奇妙な走り書きを残していたり、輸血前の記憶を失っていたりします。
血の医療を受けた人間は、ヤーナムに大勢いるはずですが、こうした奇行は主人公に特有であり、他の人物については、少なくとも演出的な描写はありません。
夢の中のゲールマンは精神体ですから、その意味でも現実世界の出来事ではないでしょう。
狩人の分類
ゲールマンは最初の狩人と言われます。彼のスタイルを狩人の元祖とすれば、その後は別の狩人が登場しました。
大きく分類すると、次の3つになります。
・狩人(元祖狩人)
・教会狩人
・予防の狩人
予防の狩人は例外的な存在ですから、最後に触れるとして、まず狩人と教会狩人を比較してみましょう。

元祖狩人
ゲールマンに端を発する狩人は、古代遺跡の探索と獣狩りを任務とする技術者のような存在でした。
ゲールマンはビルゲンワースの関係者ですが、学徒として在籍したのか、狩人として協力したのかは明らかではありません。
調査団の一員として、古代遺跡を探索したり、漁村事件に加担したことは確かです。
「ウィレーム先生」と呼んでいるため、学徒だった可能性は十分あります。
ローレンスがウィレームと袂を分かった時は、どうやらローレンス側に付いたようです。同世代の盟友だったのかもしれません。
初期の狩人は、特殊な技術者・職人という色合いが強く、組織化されていない少数精鋭でした。
彼らは獣の血を浴びたり、狩りに依存することで精神を蝕まれ、自らが獣化するリスクを理解していました。
その危険に怯えながらも、個人の信条と覚悟で活動する、レンジャー的な存在だったと言えるでしょう。
ゲールマンが管理人を務める「狩人の夢」に属するのは、このタイプの狩人です。もちろん主人公もその一人です。

教会狩人
教会狩人は、英雄ルドウィークに代表される、戦闘に特化した教会の武装集団です。
教会の武装集団は二つありますが、この教会狩人は獣狩りを担当しており、もう一つの処刑隊は異端狩り(対人戦闘)を任務としています。
繰り返しになりますが、獣化の原因は、教会が提供する「血の医療」です。
自ら獣化の原因を作っておきながら、獣狩りをして民衆の味方とアピールしているわけですから、当人たちの主観はさて置き、客観的には反社勢力そのものと言えます。
狩人との違いは、対獣戦闘に特化した集団であることです。その資金と組織力を生かして、大量動員できる軍隊に相当します。
彼らの多くは、自分たちが聖なる存在で、善行をしていると信じています。
幹部の一部は、教会が抱える矛盾に葛藤しながらも、獣を相手に剣を振るい続けますが、それ以外の真実を知らない者は、神に仕えているという清らかな意識だったことでしょう。
聖なる血を守るために、宗教的な聖戦を行っていると思っていたかもしれません。
血によって生命力は一時的に強くなりますから、それが教会狩人たちの戦闘力を高め、そして信仰を強めるという残念なループになりました。
元祖狩人のイメージがレンジャーだとすれば、教会狩人のイメージは信仰戦士がよく合います。
医療教会を創設したローレンスと、英雄であるルドウィークは、二人とも自らが醜い獣になりました。結果的には、彼らは神を冒涜していただけでした。
屈強な教会狩人や敬虔な聖職者ほど、凶悪な獣に化けたと言われます。
教会狩人たちが命を賭けて、せっせと励んでいたのは、実はヤーナムの街に凶悪な獣を供給することだったのです。これほど人生を賭けた、そしてハタ迷惑なギャグはありません。

予防の狩人
最後は、予防の狩人です。これは例外的な存在であり、組織化もされていません。
狩人が闇落ちした場合、血に酔って正気を失ってしまいます。獣化したり発狂したりする前に、その兆候が表れた狩人を始末するのが、この予防の狩人の役割です。
作中で登場するのは、鴉羽のアイリーンだけであり、ゲールマンやルドウィークに当たる指導的存在がいたのか、単にアイリーンが個人として活動していたのかは分かりません。
そのアイリーンにしても、狩りに魅入られた描写があるため、彼女もまた正気を失いつつあったのかもしれません。
予防の狩人のイメージは、音もなく近寄るアサシンがよく似合います。

注
この記事は個人の考察であり、フロムソフトウェア社の見解ではありません。
内容の正確性を保証するものではなく、作品をより楽しむための娯楽的推測であることをご了承ください。
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