魂だけを滅ぼしたい誰か
次に、黒き刃について見ていきましょう。分かっているのは次の事項です。
・黒き刃は、マリカと同じ出自を持つ、マリカ側近の暗部集団である。
・ゴッドウィン襲撃の後、黒き刃は王都を逃亡している。
この事件の大いなる謎の一つは、「マリカが共謀したか否か」です。
この謎を解いてくれるテキストはなく、私たちは傍証や状況証拠から推測することしかできません。
なぜマリカの共謀が疑われるかと言えば、実行犯がマリカに近しい黒き刃だからです。
黒き刃の装備
・陰謀の夜の実行犯たる刺客たちはすべて女性であり、一説にはマリカに近しい稀人であったという。
稀人のルーン
・稀人は、かつて狭間の外からやってきた、女王マリカの同族であるという。
マリカがこの特殊部隊を貸さなければ、ラニは陰謀を遂行できなかったでしょう。
仮にラニの単独犯だとすれば、マリカが認めていない状態で、黒き刃が動く理由がありません。
そうであれば、やはりマリカとラニは、共謀したと捉えるのが自然です。

その線で考えれば、肉体だけを滅ぼしたかったラニに対して、マリカには「魂だけを滅ぼしたい誰か」がいたことになります。
この利害が一致したからこそ、側近の黒き刃を貸して、義弟のマリケスを欺いたのだと思われます。
黒き剣の追憶
・マリケスは、神人に与えられる影従の獣であった。
マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み、後にそれを裏切ったのだ。
黒き刃は失敗した?
しかし、結果は対照的でした。ラニは目的を達成したのに対して、マリカは寵愛した息子を失って狂乱しています。
つまり、黒き刃の陰謀の夜は、目的(肉体だけの死・魂だけの死)を中途半端に達成した、想定外の事態だったことになります。
ここは推測の域を出ません。直接的なテキストは一切ありませんが、しかし興味深い傍証があります。
それは実行犯である黒き刃が、王都ローデイルから逃亡していることです。それも刃の長アレクトーと、娘であるティシーまで。
なぜ逃げる必要があるのでしょうか?
危険を冒して主命を遂げたのであれば、報われて然るべきでしょう。しかし実際は、命からがら逃亡しています。
黒き刃ティシー
・陰謀の夜、黒き刃に死のルーンを宿し、黄金のゴッドウィンを殺した暗殺者の一人ティシーは、黒き刃の長アレクトーの娘であり、王都からの逃亡時、母を守り命を落としている。
このテキストによれば、任務に失敗した可能性があります。
命令違反または重大な手違いによって、マリカの怒りに触れてしまった可能性が。

刃の長アレクトーを逃がすために、娘ティシーは命を落としています。追っ手は相当な手練れだったのかもしれません。
そのアレクトーが逃げ込んだ先は、月光の祭壇にある封牢でした。湖のリエーニエ、つまりカーリア王家の支配域です。
これはラニに保護を求めて、匿ってもらったのではないでしょうか。
また、湖のリエーニエには「黒き刃の地下墓」があります。
そこでは黒き刃の刺客が、襲撃に使用した「黒き刃の刻印」を守っています。
これはラニの名が秘された、死の刻印がある短剣です。ラニが事件の首謀者であることを示す物証であり、幻の壁の奥に隠されています。
忌まわしき半身
それでは、マリカが本来想定したこと、すなわち「魂だけを殺したい人物」とは、誰だったのでしょうか?
義弟マリケスを欺いてまで、遂げたかった目的です。
影従の獣は上位者の手先ですから、影従を裏切ることは、上位者に楯突くことを意味します。
これは私が思うに、ラダゴン以外は考えられません。
ラダゴンはまた、ややこしい立ち位置ですので、詳細は別の機会に触れるとして、結論だけを言えば、彼はマリカと肉体を共有する存在です。
心理学でいう二重人格とは違うのですが、イメージとしては「二重人格的」なものです。
しかも厄介なことに、マリカとラダゴンは思想が大きく異なります。
片や黄金律に不信を募らせており、片や黄金律に忠実な原理主義者です。一つの体に相反するものが宿っています。
マリカはこの半身を疎ましく思っていたのでしょう。
マリカ
・おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ。お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない。
さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!
道連れ覚悟のような発言をしています。マリカは体を乗っ取られつつあり、ラダゴンに抵抗しているように見えます。

これは推測の域を出ませんが、しかし次のように考えると、不可解だった情報がつながります。
・ラニは、肉体だけを滅ぼす。魂は残る。
・マリカは、ラダゴンの魂だけを滅ぼす。肉体とマリカの魂は残る。
・側近の黒き刃に実行させる。
・しかし、黒き刃は任務に失敗して、王都から逃亡した。
大いなる意志に牙を剥くという点でも、齟齬がありません。半身のラダゴンと義弟マリケスは、いずれも上位者側に立つ存在です。
それに対して、マリカとラニは上位者に抗う立場であり、共謀する理由があります。
二人にとって、黒き刃の陰謀の夜は反逆計画だったのです。
こう考えると、その後に続くエルデンリングの破砕まで、綺麗につながることになります。
ただ、この説はおおむね整合しているものの、一つ大きな謎を残しています。
それはなぜ、黒き刃が任務に失敗したのか、つまり標的を誤って、ラダゴンではなくゴッドウィンを襲ってしまったのかです。
この点は残念ながら、傍証や状況証拠すらありません。
闇夜で単純に誤認したのか、狙いを察知したラダゴンが何か影響を及ぼしたのか、真相がまるで分からないのです。
また、ラニから見た場合、父殺しになってしまう点も弱点です。
ラニは母レナラを愛しているので、母を壊したラダゴンを恨めしく思っているでしょうが、しかし殺害するほどの動機かは分かりません。
こうした懸念点を含みながら、それでも私がこの説を支持したいのは、「マリカの大逆計画」という幹線に沿っていることを重視するからです。
詳しくは「マリカの大逆計画」をご参照ください。

死の番人
続いて、ある意味で被害者と言える「黒き剣のマリケス」を見ていきましょう。
マリケスは、大いなる意志がマリカに与えた影従の獣であり、マリカの義弟です。
影従の獣は、普段は神の最側近として協力しますが、仮に神が反逆した場合は、これを抹殺するように呪いをかけられています。
マリケスの最大の武功は、神人の資格があった「宵眼の女王」を討ち取ったことでしょう。
神狩りの剣
・かつて神肌の使徒たちを率い、マリケスに敗れた、宵眼の女王の聖剣。
黒炎の儀式
・使徒たちを率いた宵眼の女王。彼女は、指に選ばれた神人であったという。
神肌の使徒装備
・神狩りの黒炎を操る使徒たちは、かつて運命の死に仕えていたという。
しかし、黒き剣のマリケスに敗れ、それを封印されてしまった。
宵眼の女王とその黒炎は、神殺しができる脅威の存在でした。
マリケスが、ライバルに当たる存在を潰したことで、マリカは神になれたようです。

その後、マリカはエルデンリングから死のルーンを取り除き、これをマリケスに預けて、厳重に管理させました。
本作において、マリケスは「死の番人」のような役割です。
もう二度と、誰にも盗ませはせぬ
しかし、マリケスは黒き剣に収めていた死のルーンの一部を、何者かに奪われてしまいます。
デミゴッドをも殺せる力が、外に漏れてしまったのです。この力を短剣に刻印して、ゴッドウィンの魂を滅ぼしたのが、黒き刃の陰謀の夜でした。
マリケスは、この失態を大いに恥じて、自責の念に駆られました。
獣の司祭グラングというバレバレの変装で、各地に現れた死の根を回収しようとしています。
獣の司祭グラング
・…もう、忘れぬ。我が罪、渇き…。…喰らう。もっと、喰らう…。
彼は死に魅入られているわけではありません。自分の失態で漏れ出てしまった死を、元の場所に戻そうとしているのです。
なぜ食べるのかと言えば、それは剣に封じていた死のルーンを、今度は自分の内部に封じたからです。
マリケスの黒き剣
・運命の死を宿したマリケスの黒き剣。その大いなる抜け殻。
陰謀の夜に、死の一部が盗まれた後、マリケスはこの剣を自らの内に封じた。もう二度と、誰にも死を盗ませぬように。
マリケス
・運命の死に近づく者よ。もう二度と、誰にも盗ませはせぬ。
なぜ我を欺いた…?
マリケスは、マリカに与えられた死の番人という役割に忠実でした。
しかし、そのマリカがエルデンリングを破砕して、生死のルールを乱したことに落胆・困惑しています。
マリカと黄金律に忠実に仕えるマリケスにとって、マリカが黄金律を壊したことは理解できなかったようです。その意味では、やや気の毒な立ち位置かもしれません。
黒き剣の追憶
・マリケスは、神人に与えられる影従の獣であった。
マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み、後にそれを裏切ったのだ。
獣の司祭グラング
・…マリカよ、なぜ…我を、欺いた…なぜ、壊した…。

影従の獣は、主が反逆した場合、これを抹殺するように呪われているはずです。
なぜマリケスは、マリカがエルデンリングを破砕して、上位者に反逆したのに、マリカを抹殺しないのでしょうか?
それは次のような理由と思われます。
・エルデの獣が、マリカを磔にしたから。
・エルデの獣が、マリカの体を器にしているから。
・黄金律原理主義のラダゴンが、半身として体を共有しているから。
マリカが愛した黄金の子
マリカ黒幕説の中には、マリカ自身がゴッドウィンの殺害を企図したのではないか、と見る意見もあるようです。
一般人の感覚であれば、「我が子を殺害するだろうか?」と疑問に思うでしょう。
しかし、マリカは忌みの双子を地下に捨てたり、蛇と炎を宿すメスメルを、追放同然に影の地へ送り込んだりしています。
好き嫌いが激しい上に、冷酷な一面があるのは確かです。
ただ、次の発言やテキストを見る限り、やはり黄金のゴッドウィンは、マリカに寵愛されたと考えてよいようです。
ラニ
・…冷たい霧の夜だった。死のルーンが盗まれ、黄金のゴッドウィンが、デミゴッド最初の死者となった時、…女王マリカは狂ったのだろう。
完全律の修復ルーン
・現黄金律の不完全は、即ち視座の揺らぎであった。人のごとき、心持つ神など不要であり、律の瑕疵であったのだ。
マリカはゴッドウィンの死に、大いに心を乱しました。
そして、大いなる意志に募らせていた叛心が、この事件を機にプツンと切れたのか、エルデンリングを破砕するという決死の行動に及びます。

金仮面卿は、そのような人間らしい感情は、神として「不要であり、律の瑕疵」だと断じています。
彼はラダゴンと同じく、黄金律原理主義に立ちました。
したがって、金仮面卿が提供する「完全律の修復ルーン」でエルデンリングを修復した場合、大いなる意志が喜ぶエンドということになります。
エルデの獣を倒しているので、支配は及ばなくなるのかもしれませんが。
なお、子供たちに対するマリカの好き嫌いは、別の機会に触れてみたいと思います。
注
この記事は個人の考察であり、フロムソフトウェア社の見解ではありません。
内容の正確性を保証するものではなく、作品をより楽しむための娯楽的推測であることをご了承ください。
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